特定の地域(都道府県や市町村や地区等)で古くから栽培され続けてきた品種。
複数の表記があるが特に「在来種」がよくつかわれる表現で、他に「在来作物」「郷土作物」などの表現が使われることもある。
成長が早くなり大きくなりやすく、形や成長速度が均一になりやすいことが強みのF1種の普及や、食の洋風化が進んだ昭和30年代を境に生産量が減少し、併せて品種の総数も減少傾向にある。
古くからその地域で作られてきた在来種をブランド化したもの。
有名なものだと京野菜、江戸東京野菜、加賀野菜などがある。
県が認証制度を設けて条件を満たしたものを伝統野菜としていることが多い。
植物が持つ多様な遺伝子を、育種(品種改良)に有用な資源であることから「植物遺伝資源」と表現する。
例えば稲と一口に言っても、暑さに強い品種、寒さに強い品種、ある病気に強い品種、収穫量が多い品種、背が低い(倒伏しにくい)品種、食味に優れた品種などいろいろな品種がある。
気候変動による猛暑の増加や新たな疫病の発生などのリスクを考えると、品種の数は多ければ多いほうが良い。
その上、より良い品種(生産量が高い、疫病に強い、食味が良い等)を作るためには交配に使える品種の数が多ければ多いほうがいい。
農研機構の農業生物資源ジーンバンク 「遺伝資源が貢献した結果」には在来種が育種に活用された例が掲載されている。
在来種や伝統野菜を守ることは我々の未来を良くする、ということができる。
例えば、カボチャには戦国時代に定着したメキシコ原産の「日本カボチャ」明治時代に西洋経由で日本に来た南米原産の「西洋カボチャ」がある。
現在生産・流通しているカボチャは大半が西洋カボチャで、日本カボチャは希少な品種。
希少種となった現代でも、料亭・割烹など和食を出す店では味が薄く食感がねっとりした日本カボチャが好まれる。
2020年より栽培を続ける中で当初は固定種がメインだったが、現在は在来種へとメインを移しつつある。
他県の珍しい品種を作っているが、最近は特に北海道の在来種をつないでいくことに取り組んできたいと考えている。
具体的には、虎豆、鶴の子大豆、及部きゅうり、亀田かぶ、ビルマ豆など
なぜ伝統野菜が現在まで残ってきたのか?
理由はいくつかあるが、美味しいから、郷土料理に欠かせないから、冬を乗り切る保存食として暮らしに必要とされてきたから、などがある。
個人的に思うこととして、種を流通する仕組みや、交換する仕組みがあったとしても、種を手に入れた人がその品種の栽培方法・収穫方法・採種方法・消費方法についてわからなければ、来年以降も育ててみようと思わなくなる可能性が高い。
実際に自分が育て続けている品種は、育てやすい、美味しい、消費方法がはっきりしている、栽培が大変でも育てたいほど好き、という特徴がある。
当ホームページでは多くの人が種をつなぐきっかけづくりをできるようにと、特に採種方法・消費方法についてできるだけ詳しく説明するようにしています。
百聞は一見に如かずで、実際に現地に足を運ぶと本だけでは得られない知識を得ることができるし、現地の伝統野菜や自家採種関係の人たちとの人脈を築くことにもつながる。
得た情報を発信することで、その地域の魅力的な伝統野菜を他の地域の人に住む人たちにも伝える。
2025年時点では北海道や近隣の東北地方北部にしか行けていないが、さらに遠くへ行ってみたい。
普段は収穫した野菜を食べていますが、寒冷地に住んでいる関係で春~初夏は手元から野菜がなくなります。
この時期は在来種・伝統野菜を通販で購入して食べます。
興味がある方は「固定種」「在来種」「伝統野菜」などで検索してみたり、ポケットマルシェや食べチョクなどで検索してみたりと固定種などの野菜セットがヒットするので、気になったものを買って試してみると良いでしょう。
野菜セットの写真は千葉県佐倉市に農場を持つ ケールファームさんの固定種セット
何が入っているかは届くまでのお楽しみ。野口のタネでよく見かける品種が入っており楽しい。
来春~初夏は warmerwarmerさんでの購入を検討
他に、夏はマルシェに足を運び、珍しそう、おいしそうな品種の野菜を見つけたらよく買っています。
特に美味しいと思った品種は来年の栽培候補リストに入れています。
在来種の種子の保護は国や都道府県の機関で行われています。
北海道:北海道総合研究機構 中央農業試験場 遺伝資源部(北海道滝川市)
福島県の余蒔きゅうりや宮崎県の佐土原ナスのように、途絶えたと思われていた品種がジーンバンクに保存されていた種から復活した事例もあります。
一方、昨今の猛暑や豪雨などの気候変動リスクを考えると、多様な植物遺伝資源を確保する観点から、在来種を毎年育てながら種取りを続けて環境に適合した種を作って行くことも重要でしょう。
国や都道府県で種子を保存する仕組みを維持しつつ、経済活動を通じて在来種の種子を作っていくことが理想的であると考えています。
在来作物研究の先駆者である青葉高氏(1916-1999)は「在来作物は生きた文化財」という言葉を残している。
「生きた文化財」が表すことは何か?それは、
・そこで暮らす人が在来作物を美味しく食べ、効率よく栄養を摂取するために生み出した郷土料理
・長い冬や飢饉に備えた保存食の作り方
・地の利や環境を生かした作物の栽培方法や収入源の作り方
・伝統野菜とともに語り継がれた昔話
などがあると考えている。
つまり、在来作物とは「多くの人の知恵・工夫・想い・物語が詰まった野菜」である、ということである。
ある在来作物を守ることは貴重な植物遺伝資源、そして在来作物とともに伝えられてきた貴重な情報(=生きた文化財)を守ることにつながる。
世界各地で長い年月をかけて先人がつないできた種を見ると
日本なら、里山の景色、昔ながらの暮らしの様子
ヨーロッパなら、東欧旅行で見た田園風景や城下町の景色
アメリカなら、ネイティブアメリカンの暮らしの様子
が頭に浮かぶ。
ある在来種が途絶えることは先人のつないできた種が失われる非常にもったいないことである。
生きた文化財と植物遺伝資源を失うことにもなるので、人類にとって大きな損失である。
当ホームページを見てもし在来種、伝統野菜に興味を持ってくれたら、守っていくためにお住まいの地域の在来種、伝統野菜を食べてみる、自家採種して育ててみる、など取り組んでいただけるととても嬉しいです。
そして自分自身、伝統野菜を守るためにできることは何かを常に思索して過ごしています。
県が認証制度を設けて条件を満たしたものを伝統野菜としていることが多い。
各県の認証制度、認証の条件を整理してみた。
※江戸東京野菜はJA東京中央、加賀野菜は金沢市が認証している。他は全て県が認証している。
基本的にどの県でも郷土料理や地元の食文化との繋がりを重視している。
条件とする年代は昭和20年より前、つまり戦前が一番多い。
秋田・長野・愛知は昭和30年代より前としているが、この時代はF1種の普及や食の洋風化が進んだ時代でもある。
関西地方はさらに前から栽培されていることを条件としており、中でも京都・滋賀は明治以前と条件が厳しい。
都道府県 | 名称 | 認証条件(抜粋) | 年代 |
---|---|---|---|
秋田 | 秋田の伝統野菜 | 昭和30年代以前から県内で栽培されていたもの。 地名、人名がついているなど、秋田県に由来しているもの。 現在でも種子や苗があり、生産物が手に入るもの。 | 昭和30年代以前 |
山形 | 最上伝承野菜 | 最上地域特有で概ね昭和20年以前から存在していた野菜・豆類など 現在も最上地域で栽培され、自家採種しているもの | 昭和20年以前 |
山形 | 山形おきたま伝統野菜 | (1)置賜地域で概ね昭和20年以前から栽培されている在来種 (2)置賜地域の歴史と食文化を伝えるもの | 昭和20年以前 |
山形 | 村山伝統野菜 | 村山伝統野菜 ①村山地域で、優れた郷土の食材として親しまれてきた野菜 ②おおむね昭和20年以前から栽培・利用されてきたもの ③地域で品種、系統が維持されているもの ④現在、種苗が入手可能なもの | 昭和20年以前 |
東京 | 江戸東京野菜 | 江戸東京野菜は、江戸期から始まる東京の野菜文化を継承するとともに、種苗の大半が自給または、近隣の種苗商により確保されていた昭和中期までのいわゆる在来種、または在来の栽培法等に由来する野菜のこと。 | 昭和中期まで |
石川 | 加賀野菜 | 現在、加賀野菜には15品目が認定されており、これらは全て昭和20年以前から栽培され、現在も金沢で栽培されている野菜です。 | 昭和20年以前 |
福井 | 福井百歳やさい | 一、生産者自らが、種をとり栽培している。 二、100年以上前から栽培されている。 三、地域に根ざした作物である。 | 100年以上前 |
長野 | 信州の伝統野菜 | 来歴 地域の気候風土に育まれ、昭和30年代以前から栽培されている品種 食文化 当該品種に関した信州の食文化を支える行事食・郷土食が伝承されている 品種特性 当該野菜固有の品種特性が明確になっている これらの条件を満たす物のうち、認定委員会の意見を得て長野県が選定したものが「信州の伝統野菜」となります。 | 昭和30年代以前 |
岐阜 | 飛騨・美濃伝統野菜 | 岐阜県内で古くから栽培されている特色ある野菜・果樹等のうち、 一定の要件を満たす品目・品種を岐阜県が認証したもの。 1.岐阜県で主に栽培されていること 2.岐阜県の気候風土により特性がみられること 3.古く(昭和20年以前)から栽培され、地域に定着していること | 昭和20年以前 |
愛知 | あいちの伝統野菜 | 昭和30年頃に栽培されていたもの 地名、人名がついているものなど愛知県に由来しているもの 今でも種や苗があるもの 種や生産物が手に入るもの | 昭和30年以前 |
三重 | 美し国「みえの伝統野菜」 美し国「みえの伝統果実」 | ①生産量 生産量が確保でき、市場等に出荷されている ②歴史性 地域で50年以上前に栽培されている事実があり、現在も栽培されている。 ③地域性 地域の祭事等での活用や地域に伝わる郷土食のレシピがある等地域において欠かせないものとなっている。 ④商品価値 三重の農産物のイメージアップを醸成できるもので、県外等生産地域外の消費者にも評価されることが期待できる。 ⑤品種・品質 品種の純粋性が確保されている。あるいは、現在も伝統野菜・伝統果実としての特徴や一定以上の品質が確保されている。 | 50年以上前 |
滋賀 | 近江の伝統野菜 | 以下の条件を満たす伝統野菜を県が「近江の伝統野菜」として認定します。 原産地が滋賀県内で概ね明治以前の導入の歴史を有している。 外観、形状、味等に特徴がある特産的な野菜。 種子の保存が確実に行われている。 | 明治以前 |
京都 | 京の伝統野菜 | (1)明治以前の導入栽培の歴史を有する。 (2)京都市域のみならず府内全域を対象とする。 (3)たけのこを含む。 (4)キノコ類、シダ類(ぜんまい、わらび他)を除く。 (5)栽培又は保存されているもの及び絶滅した品目を含む。 | 明治以前 |
大阪 | なにわの伝統野菜 | (1)昭和初期以前(概ね100年前)から大阪府内で栽培されてきた野菜 (2)苗、種子等の来歴が明らかで、大阪独自の品目、品種、栽培方法によるもの、又は府内特定地域の気候風土に育まれたものであり、栽培に供する苗、種子等の確保が可能な野菜 (3)府内で生産されている野菜 | 昭和初期以前 |
奈良 | 大和の伝統野菜 | 大和の伝統野菜とは、戦前から本県での生産が確認されている品目で、地域の歴史・文化を受け継いだ独特の栽培方法等により、「味、香り、形態、来歴」などに特徴をもつもので、20品目※を認定しています。 | 昭和20年以前 |
熊本 | くまもとふるさと野菜 | 熊本の人や風土とかかわりが強く昭和20年以前から熊本県内で栽培されてきた野菜や伝統料理と結びつき伝統的に栽培されてきた野菜。 | 昭和20年以前 |
鹿児島 | かごしまの伝統野菜 | 鹿児島の人や風土とかかわりが強く,郷土の食文化を支えてきた野菜で,古く(おおむね昭和20年以前)から県内で栽培されてきた野菜を「かごしまの伝統野菜」という。 | 昭和20年以前 |
沖縄 | 伝統的農産物(島野菜) | 健康長寿県として注目される沖縄において、戦前から導入され、伝統的に食されてきた地域固有の野菜 | 昭和20年以前 |
在来作物の保護・活用に関心のある有志達が各地で設立し活動する団体
都道府県 | 団体名 |
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青森 | 青森県在来作物研究会 |
宮城 | みやぎ在来作物研究会 |
秋田 | あきた郷土作物研究会 |
山形 | 山形在来作物研究会 |
新潟 | にいがた在来作物研究会 |
静岡 | 静岡在来作物研究会 |
愛知 | あいち在来種保存会 |
兵庫 | ひょうごの在来種保存会 |
大分 | おおいた在来作物研究会 |
鹿児島 | 鹿児島伝統作物保存研究会 |
地域 | 著者(敬称略) | 書籍名 | 出版年月 |
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秋田 | あきた郷土作物研究会 | あきた伝統野菜「種と人の物語」 | 2025/08 |
山形 | 山形在来作物研究会 | どこかの畑の片すみで 在来作物はやまがたの文化財 | 2007/08 |
山形 | 山形在来作物研究会 | おしゃべりな畑 やまがたの在来作物は生きた文化財 -どこかの畑の片すみで partⅡ- | 2010/01 |
長野 | 産直新聞社 | 産直コペルvol.71 | 2025/04 |
長野 | 大井美知男 市川健夫 | 地域を照らす伝統作物 | 2011/10 |
静岡 | 静岡在来作物研究会 | しずおかの在来作物 風土が培うタネの物語 | 2014/10 |
滋賀 | 長朔男 | ふるさとの財 近江の在来野菜誌 | 2023/02 |
兵庫 | ひょうごの在来種保存会 | つながっていく種と人 ひょうごの在来作物 | 2016/03 |
奈良 | 三浦雅之 | 奈良のタカラモノ | 2024/11 |
広島 | 花井綾美 | 土と人と種をつなぐ広島 | 2023/05 |
日本 | warmerwarmer | 日本のうつくしい野菜 | 2025/09 |
日本 | 味の素食の文化センター | vesta 132号 伝統野菜・在来作物 | 2023/10 |
日本 | 西尾敏彦 藤巻宏 | 日本水稲在来品種小事典 | 2020/03 |
東北 | 佐々木寿 | 東北ダイコン風土誌 | 2011/10 |
緑・・・伝統野菜の認証制度が存在する
黄・・・県全域を対象とした在来作物研究会が存在する
青・・・両方存在する