種に関するあれこれ
種関連書籍
固定種・在来種・自家採種などを深く知る書籍
のうりん
岐阜県の農業高校を舞台にしたギャグ系ライトノベル(2014年アニメ化)
作者白鳥士郎氏の入念な取材に基づいた農業関連の話題が出てくる。GM食品、家畜福祉、食料自給率、植物病理、ET牛、昆虫食、品種改良等テーマの幅が豊富。
原作3巻・アニメ10話で固定種とF1種に関する話が出ており、はじめて「固定種」の存在を知った自家採種の原点となった作品。
固定種のナスの味に感動した校長先生が巨大化して学校を破壊し、そのまま宇宙に飛び出したシーンは忘れられない。
シードフィリアとしては種苗メーカーのカタログ・オリジナル品種に関する話が出てくる11巻の「とある農家の品種目録(インデックス)」もかなり面白い。
小林種苗、ナント種苗、タキイ種苗、カネコ種苗、トキタ種苗など有名な種苗メーカーの珍名な品種が多数紹介されている。
平安時代から続く岐阜が誇る干し柿の王様「堂上蜂谷柿」、岐阜県在住の尾関二郎氏が苦労の末育種した「みのにしき」など岐阜に関するご当地ネタも多い。
タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ
中学3年で「鶴頸種苗流通プロモーション」を起業した小林宙さんの著書
在来種・伝統野菜が減りゆく現状において、多様な種を残すことの有用性として食文化を守ることと、人類の生存戦略に役立つことを述べている。
屋号「鶴頸種苗流通プロモーション」には種の流通を促進することへの思いが込められている。種の地域間の交流や品種の移動を加速化することが狙いだ。
個人的に好きな個所は「第2章 伝統野菜を守るために」の「仕入れたタネをそのまま売るという信念」。
種は基本的に自家採種を続けると栽培している個所の環境に適合し、独自の味や形質を持ったものへと変わっていく。
一方、伝統野菜の多くはその種をつないできた採種農家や種苗店のたゆまぬ努力により、味や見た目などの形質が元の種から大きくかけ離れないように維持され続けてきた。
伝統野菜の種を育てて自家採種した種を売るのではなく、仕入れた種をそのまま売ることは伝統野菜だけでなくその背景にある文化や技術を守り、多くの人に広げていくことにつながるのである。
タネが危ない
固定種でおなじみの野口種苗研究所野口さんの著書。
固定種・F1種などの種子や育種に必要な基本的な知識(メンデルの法則、除雄、雄性不稔、自家不和合性、戻し交配等)、F1種の交配親の育種の進化の流れ(手作業で除雄→自家不和合性の植物に対し蕾受粉→戻し交配による雄性不稔親の育種)、作物ごとの固定種・F1種の流通状況など、種苗関係者でなければ得にくく難しい情報を初心者にも分かりやすく説明している。
雑種強勢のたまものにより形質や成長速度が均質化したF1種の大量生産への適性・メリットを説明する一方で、家庭菜園における固定種の自家採種による栽培を推奨している。
固定種は親の形質が確実に遺伝し、さらに何年を自家採種を繰り返すことで環境に適合し、自分オリジナルの種子が誕生するからだ。各地で種取りし続けられた固定種が、将来の農業を救う可能性を述べている。
個人的に面白いと思った個所は、小松菜とカブを親にした固定種とF1種の育種方法の説明。
固定種の場合は自分の目的とする特徴を持った株から何年も自家採種を繰り返す(人類が原始時代から経験的に行ってきたこと)
一方、F1種の場合は蕾受粉(手作業でやるのは非常に大変)を繰り返して純系の自家不和合性を持たせた親を作る必要がある。F1種を作るのには多大な労力がかかるのである。
種をあやす
長崎の種取り農家岩崎さんの著書。
自身を育種家や採種農家ではなく「種取り農家」と称し、自家採種してきた在来種の野菜とともに暮らしてきた日々の喜びや野菜の魅力をつづっている。
紹介している書籍の中では特に文章が読みやすく、詩的で引き込まれるような文章のため、初心者に特におすすめ。
個人的に面白いと思った個所は、1.長崎を代表する在来種「雲仙こぶ高菜」復活の話。かつて販売していた種苗店が店をたたみ種子が手に入らないと思われていたが、家庭菜園用に種をつないでいた人の手を経て岩崎さんの手に渡り復活を果たした話。
2.あえてこぼれ種から育て雑草とともに育てた中から選抜する方法をとっている話。昔の手間を省くためにあえてこぼれ種から育てていた農法や、現代注目されている自然農法に通じる思想を感じる。
日本水稲在来品種小事典
近代になると各地で育種家達によって各地の気候や風土に合ったお米、つまり在来のお米が選抜や交配で作られ育てられてきた。これを水稲在来品種と呼び、愛国、亀の尾、旭、神力をはじめ現代の主力品種のルーツとなった品種を紹介している。
現在は主力品種に置き換わっていてほとんど栽培されていないが、早生、多収、耐病性、耐寒性、短稈(倒伏しにくい)、良食味など各品種の特性はいまの主力品種にも生き続けている。
これを読めば各地の在来品種の顕彰碑巡りをしたくなるはず。(読んで早速島松の「寒冷地稲作発祥の碑」に行ってきた)
詳しくない感想はこちら(気になる方は是非本書を読んでみてください)
情熱のたね エアルーム野菜のはなし
岡山市のレイヴンファームさん作・絵担当はイラストレーターのきのしたちひろ氏
かわいらしいワタリガラスのイラストとともにエアルーム野菜の魅力、歴史、作者の思いが込められた一冊。
少しでも多くの人に読んでいただきたく、種交換会に持って行っています。
伝統野菜を作った人々 「種子屋」の近代史
近代日本の野菜生産を支えた種子屋を当時の史料をもとに解説する書籍。
固定種の種子がメインに販売されていた明治~昭和戦前(本書では「固定種の時代」と言う)の文書記録を調査し種問屋、採種農家の分業化や成長の様子を正確に描いている。
この研究のすごいところはこれまで明らかになっていなかった「固定種の時代」を当時の記録をもとに調査し明らかにした点。
当時の問屋のやり取りや販売記録(中にはクレームや、仕入れのために上京した種屋が都会で遊ぶのを楽しんでいる様子)、他にも文書をもとに種の販売・流通に関するデータを細かく数値化しており、種苗・農学史の研究における大作と言える。
近代の農家も種子を購入していることが多く、その理由が固定化が進み形質が均質化した野菜のニーズが高かったから、というのはF1種が中心を占めている現代にも通じるところがあり面白い。
近代の種苗会社のカタログの表紙や種袋、当時の野菜のイラストも見所。
詳しくない感想はこちら(気になる方は是非本書を読んでみてください)
日本の品種はすごい うまい植物をめぐる物語
育種技術、市場を席巻するメーカーのF1種、在来種や伝統野菜、古文における野菜など幅広く書かれており面白い。
美味しそうな品種、個性的な品種、育種に関わった先人の話が取り上げられており、育種は素人だけど品種について詳しく知りたいという人におすすめ。
固定種・F1種に関わらず、良い品種を作るためにはできるだけたくさんの純化された固定種や在来種を持っておく必要があるので、育種技術者は固定種や在来種の価値を深く理解していると言える。
また、各地の伝統野菜で品質の均一化の観点からF1種が使われている例が紹介されている。
伝統野菜=在来種=固定種というイメージが強かったので、実はF1種が使われているケースが多いというのは興味深いし面白い。
詳しくない感想はこちら(気になる方は是非本書を読んでみてください)
在来作物を受け継ぐ人々 種子(たね)は万人のもの
民俗学の視点から各地の在来作物に関わる伝承、栽培技術、民話、貯蔵法などをまとめている。
「ただでもらった種からはいい実がならない」「万が一の不作に備え種は次の収穫まで保存する」「同じ畑で取り続けていると株が小さくなる(=矮性化)ので定期的に同じ品種で違う畑の人の種と交換する」など昔の人が経験から得た知恵は今の種取りにも役立つ知識が多い。
江戸時代各地で農民たちが稲の種を交換していたことが記録に残っており(つまり現代でいう種交換会)、昔の人が各地の種を混ぜて育てることでより良い種を作ろうとしていたと考えられる。
高知県梼原町にある「種子換え地蔵」では、参拝した人は種をもらう代わりに種を置いていく。現代でいうシードライブラリーの感覚に近い。種に対する考え方は昔も今も大きく変わらないのかもしれない。
種子が消えればあなたも消える 共有か独占か
比較的難解な本だが、種子に関わる者として体系的に知識を得ることができたと考えている書籍。
種子法の概要(簡単にいうと、県に種子の生産と奨励品種の決定を任せる)、ITPGR(食料農業植物遺伝資源条約)とUPOV(植物の新品種の保護に関する国際同盟)、他国の品種保護の規定(インド、フィリピン、ノルウェー、EU等)、海外の種子保護ネットワークの事例紹介、民間ジーンバングや伝統野菜におけるF1種の活用など取り扱っている話題の幅が広い。
種子法廃止でどうなる?種子と品種の歴史と未来
稲の育種史や稲の種子の生産流れがよくわかる本
研究開発(育種家種子)→手作業で雑草や異品種を除去して純化(原原種)→純化した種子を増やす(原種)→採種農家で病気株や倒伏株を除いて収穫、さらに発芽試験して品質を担保(採種家種子)、と厳格な手順を踏んで稲の種籾は生産されている。
品質の高い稲の種子が農家の手に渡るまでに多くの苦労があるということはもっと知られるべきだと思う。
各地の伝統野菜の書籍
各地の個性的で魅力的でおいしい伝統野菜を深く知る書籍
奈良のタカラモノ
奈良の在来種研究家三浦さんの著書
前半は奈良発祥の文化や食べ物、後半の奈良の伝統野菜「大和野菜」に関する解説。
詳しくない感想はこちら(気になる方は是非本書を読んでみてください)
おしゃべりな畑 やまがたの在来作物は生きた文化財 -どこかの畑の片すみで partⅡ-
上記2冊の詳しくない感想はこちら(気になる方は是非本書を読んでみてください)
土と人と種をつなぐ広島
上記4冊の詳しくない感想はこちら(気になる方は是非本書を読んでみてください)
種関連映像作品
NORIN TEN~稲塚権次郎物語
背が低いので倒伏しにくく収穫量の高い奇跡の小麦「農林10号」の開発者、稲塚権次郎氏を題材にした映画
秋田・岩手の農事試験場で陸羽132号、水稲農林1号、小麦農林10号の開発にかかわる様子が描かれていた。
稲同士を掛け合わせる様子、特に真夏のビニールハウスの中で母親株からピンセットで雄蕊をすべて取り除いてから父親株の花粉をかけるシーンは見所。
現在DVDは販売していないが、YoutubeやAmazonでレンタル・購入が可能。
この映画を見た後、農林10号の親であるターキーレッド、先祖であるフルツの実物を見て背の高さに非常に驚いた。
先人の努力により今当たり前のように見る背が低く収穫量の高い小麦があるのだということを実感する。
鴻巣25号(短桿種)とフルツ(長桿種)の比較
在来種・伝統野菜系リンク
在来品種データベース
伝統野菜を研究する山形大学農学部の江頭教授と農研機構が制作した日本各地の在来種を紹介するデータベース。
品種特性、伝統的利用法、栽培・保存・継承の現状などを紹介している。
青森県在来作物研究会
青森県内の農家、大学研究者、主婦、飲食業など様々な方が在籍している。
年に1回2-3月の総会で在来作物に関する講演や種交換会を実施している。
管理人は賛助会員です。
あきた郷土作物研究会
2025年8月に「秋田の食文化を彩るあきた伝統野菜」を出版予定。
種苗法関連リンク
流通品種データベース
日本国内で流通している品種の品種登録の有無等を簡易に検索できるようにしたデータベース。
品種登録データ検索 で検索可能な農水省登録品種(取下・育成者権消滅含む)以外に、種苗メーカーが開発した一般品種の情報も確認可能。
対象の種子について種苗法の登録品種・商標登録の有無を確認することができる。
自家採種した種子を譲渡するにあたり、種苗法の登録品種・商標登録された品種のどちらにも該当しないことを確認したい場合に便利。
自家採種に便利な道具
電動唐箕
種子とごみを選別する際は伝統的に手箕と風を利用した風選が行われてきた。しかしこの方法を実践してみると、非常に手間がかかると感じ購入。
ゴミだらけだった六条大麦が1分足らずで綺麗になり、生産性の大幅な向上を実感。
ゴマ・シソなど極端に軽い・小さい種子を除けば、たいていの種子のゴミ取りに使える。
収納に余裕が有る場合は伝統的な大型の手回し唐箕を使うのもありかも。
使用している電動唐箕小型のため大豆・トウモロコシなど大きな種子を除き風選可能。